旅兎のものがたり

出雲と因幡のあいだを歩く、伯耆町の旅兎。

出雲の朝、旅兎が旅の無事を祈る

出雲の朝、ちいさな旅兎が手を合わせていました。

背中には、大きな風呂敷がひとつ。

でも中身は、まだ何も入っていません。

「よい旅になりますように」

稲佐の浜の風を受けて歩く旅兎

稲佐の浜は、風のつよい場所でした。

笠が何度も飛ばされそうになります。

この浜には、年にいちど、神さまたちがやってくるのだそうです。

旅兎はしばらく波の音を聞いてから、歩きはじめました。

白兎の気配が残る海辺で石兎たちと出会う旅兎

海ぞいの道に、石でできた兎たちが並んでいました。

ずっとむかし、この海を渡った白兎がいたのだそうです。

旅兎は足をとめて、ちいさく頭を下げました。

先輩たちに、ごあいさつ。

大山を初めて見上げる旅兎

海をはなれて歩いていくと、大きな山が見えました。

大きな、大きな山です。

あの山のふもとにも、きっとお話がある。

旅兎の足が、山のほうへ向きました。

伯耆の田畑で土地の人と出会う旅兎

田んぼの道を歩いていたら、声をかけられました。

「どこから来なった?」

「出雲のほうから」

「ほう、遠いところから。まあ、お茶でも飲んでいきない」

旅兎は、お言葉にあまえました。

小さな祠で手を合わせる旅兎

道ばたに、ちいさな祠がありました。

だれが建てたのかは、もうわかりません。

でも、お花があたらしく供えてありました。

旅兎も、そっと手を合わせました。

たたら、刀、鬼の伝承を聞く旅兎

このあたりには、むかし「たたら」という鉄づくりがあったそうです。

「のぞき込んだら丸焼きだぁ」

その鉄から刀がつくられました。

そして、その刀で鬼をたおしたお話が残っています。

「鬼さんに会えたなら、お話してみたいな」

霧の中の鬼影に驚きながら見つめる旅兎

山の道に、白い霧がすうっと降りてきました。

その向こうに、角のある大きな影。

旅兎は、ぴたりと止まりました。

風が吹くと、影は木になりました。

たぶん、木でした。……きっと木でした、よね?

茶屋で団子を食べて一息つく旅兎

茶屋で団子を食べました。

笹の香りがして、ほっとする味でした。

こわい話のあとだから、なおさらおいしい。

旅兎は、もう一本だけお願いしました。

集めた話を広げ、次の物語へつなぐ旅兎

旅兎が風呂敷をひろげると、いろいろなものが出てきました。

石ころ、もみじ、古い地図のかけら。

刀のお話、鬼のうわさ、笹のだんごのあじ。

どれもちいさな、名もないものばかり。

旅兎の旅は、まだつづきます。