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2026年7月4日 佐治漆体験会

佐治漆体験会レポート

高級な器に塗られているもの、かぶれるからこわいもの——そんな印象だった漆に、木の前で会って、食べて、自分の手で塗ってきました。鳥取市佐治町で開かれた、佐治漆の体験会の一日です。

2026年7月4日 鳥取市佐治町 樹木調査・解説・漆鶏・拭き漆
木を測る

漆の木の高さや幹の太さを測り、成長の様子を知る。

話を聞く

佐治漆の歴史と、地域で続く活動について説明を聞く。

漆を塗る

箸に漆を塗り、自分の手で素材の変化を体験する。

会場

佐治の山あいで行われた体験会

体験会の会場は、鳥取市佐治町の佐治地区保健センター。鳥取市南西部の山あいにあり、佐治川や森の気配が近い場所です。漆の木が育つ場所へも移動しながら、佐治漆の活動を現地で知る一日になりました。

佐治町総合支所周辺の案内看板と山の風景
鳥取市佐治町。山あいの風景の中で、佐治漆の体験会が開かれた。

今回の佐治漆体験会は、漆の木を見るところから、昼のオッタク、箸の拭き漆まで、一日で漆にふれられる体験会でした。 佐治漆研究会の活動を、木の観察・食・手仕事という流れで、まるごと知ることができます。

器の艶を遠くから眺めるだけでなく、木の前に立ち、説明を聞き、自分の手で塗るところまで。漆との距離が、一日で少しずつ近くなっていく体験でした。

会場のまわりには、佐治の山並みと集落の風景が広がっています。初めて訪れるなら、まずは保健センターを目印に。そこから山あいの道を進むと、漆の育つ土地へと近づいていきます。

会場

佐治地区保健センター(鳥取市佐治町)

次回参加する場合

集合場所や駐車場は開催回によって変わる可能性があるため、佐治漆研究会の公式案内で確認してください。

当日の流れ

この日に体験したこと

この日は、漆の木を見に行くところから始まり、昼食、そして拭き漆の体験へと進みました。

01

漆の木を見る

植えられた漆の木の前で、育ち方や管理の話を聞く。

02

樹木調査をする

53本の漆の木を調べ、若い木の成長を記録する。

03

オッタクを食べる

漆の木を使った韓国の鶏料理を味わう。

04

箸に漆を塗る

拭き漆を体験し、10日ほど硬化を待つ。

漆の森で、案内役が参加者に木を指しながら説明するようすを描いたイラスト
若い漆の木にかこまれて、説明を聞く。(イメージイラスト)

01 / 漆の木を見る

森の中で、漆の木の話を聞く

まず向かったのは、漆の木が植えられている場所。漆というと器や工芸品の印象が強いけれど、実際には木を植え、草を刈り、鹿などの食害から守りながら育てるところから始まります。

現地で説明を聞くと、一本一本の木が、将来の漆掻きや作品づくりにつながっていることが分かります。

植える場所にも条件があるそうです。佐治川沿いのこのあたりは、その3つがそろっていたと聞きました。

  • 日当たりがよいこと — 光をしっかり受けられる場所が適している。
  • 水はけがよいこと — 根が水に浸かり続けない土地であること。
  • 養分の豊かな土があること — 木が十分に育つだけの栄養がある場所。

だからこそ、かつては漆が盛んに育てられていたのだそうです。漆が採れるようになるまでの目安は、10年ほど。ただ、生育のいい2本ほどは、2年後には採り始められるそうです。目の前の若い木が、そう遠くない先の漆につながっている。そう聞くと、木を見る目が変わりました。

育てるうえでの苦労も聞きました。若い漆の木の皮を、鹿が食べてしまって大変だったこと。いまは町の人たちがフェンスを立てて、木を守れるようになったこと。人がかぶれる漆を、鹿は平気で食べるのだろうか、と不思議に思いました。

漆は、完成した器だけを見ていると遠い素材に感じます。でも、木の前で話を聞くと、植えて、見守って、ようやく少しずつ樹液を採るものだと分かります。ここで一気に「工芸品」から「育っている木」へ見え方が変わりました。

02 / 樹木調査

高さや幹の太さを測る

漆の木の樹高や幹の太さを測る作業も体験しました。この日は1本だけではなく、53本の漆の木を対象に、生育状況を確認していきました。

測定は地味に見えるけれど、若い木がどのくらい育っているのかを確かめる大切な記録です。数字を残すことで、目の前の木が「ただの木」ではなく、時間をかけて見守られている対象に見えてきます。

この日測った木は、いつか漆が採れる日のために、何年も前から植えられ、手入れされてきた木です。漆が採れるまでの目安は10年。植えてすぐに何かが返ってくる仕事ではありません。それでも草を刈り、鹿から守り、毎年育ち具合を測って記録する。この日の数字も、その長い記録の続きに加わります。

漆の木の前で説明を聞く様子
漆の木の高さを測る様子
漆の葉と実
黄色い測定ポールで漆の木の樹高を測り、記録を取る参加者
オッタクとご飯、キムチが並ぶ昼食

03 / 昼食

漆鶏料理「オッタク」を食べる

昼食では、韓国の漆鶏料理「オッタク」をいただきました。漆を食べると聞くと、幹や皮や実をそのまま食べるのかと思ってしまいますが、料理としては、ウルシの樹皮などを入れた水で鶏を煮る薬膳料理として紹介されます。

食べる中心は鶏肉とスープ。煮込みに使った樹皮は取り除き、煮出したスープと鶏肉を味わう料理、と考えると分かりやすいです。

韓国では、滋養を期待して食べられる料理として、専門店で出されることもあるそうです。生の漆はかぶれのもとになりますが、乾かした樹皮を使い、煮出して熱を通すことで、味わえる料理になっている。そう聞くと、「漆を食べる」という言葉の意外さが、少しずつほどけていきました。体はよく温まり、思っていたよりずっと親しみやすい味でした。

  • 韓国語では「オッ(漆)」と「タク(鶏)」で、漆鶏と訳されます。
  • 丸鶏や鶏肉を、ウルシの樹皮などを入れた水で煮る料理として知られています。
  • 体質によっては漆に反応する可能性があるため、提供時の説明を聞いて判断する料理です。

漆に対して「かぶれる」「危ない」という印象が強かったので、こういう食文化があると知ったこと自体が新鮮でした。

オッタクのスープ
オッタクを味わう参加者
漆鶏オッタクの昼食

04 / 拭き漆

箸に漆を塗る

最後は、箸に漆を薄く塗り、余分な漆を拭き取る拭き漆の体験。漆は乾くだけではなく、水分と反応しながら硬化していくと聞きました。

薄く塗って、布で全体になじませてから、しっかり拭き取る。この「塗っては拭き取る」を繰り返すほど、木目を活かしたまま、つやが深くなっていく技法だそうです。一度に厚く塗るのではなく、薄く重ねていくところが、いかにも漆らしいと感じました。

この日に塗った箸は、10日ほど待つと使える状態になります。塗って終わりではなく、少し待って、自分の箸として使えるようになる。その時間差も含めて、漆という素材らしさを感じました。

体験の最後に「自分の手で塗ったもの」が残るので、佐治漆の記憶が手元に続いていく感じがありました。

箸へ漆を塗る作業
拭き漆の手元
漆塗り後の箸
箸に拭き漆をする手元をイメージしたイラスト

体験して分かったこと

漆を身近に感じた理由

漆は高級な器や工芸品に塗られているもの、かぶれるから素人には扱えないもの。そんな印象が強かった参加者にとって、この日は漆の木の前に立ち、食べ、最後に塗ることで、漆との距離が変わる時間になりました。

いちばん大きかったのは、漆が「完成品」ではなく「育てる素材」だと分かったこと。 木の成長を測り、手入れの話を聞くと、漆器の艶の前に、山で続く作業があることが見えてきます。

オッタクを食べ、箸に漆を塗る体験まで進むと、漆は遠い工芸品ではなく、山の手入れ、食、道具づくりにつながる地域の素材だと感じられました。

印象が変わる こわい、難しいだけではなく、説明を聞きながらなら触れられる素材だと感じた。
歴史を知る 佐治には漆の歴史があり、その伝統をもう一度育てる活動が続いている。
先が楽しみ 佐治の漆で作られる作品に触れられる日を待ちたくなる。
漆の葉と実
漆の葉と実。体験を通して、工芸品の前にある木の姿を知った。

参加して感じたこと

漆は、思っていたより近い素材だった

体験前は、漆は高級なお椀や工芸品に塗られているもの、かぶれるので素人には扱えないもの、という印象が強くありました。

でも実際には、手袋や説明があり、扱い方を知ったうえで体験できる場が用意されていました。漆の木を見て、管理の一部を手伝い、昼にオッタクを食べ、最後に箸へ漆を塗る。流れで体験すると、漆は急に身近になります。

いちばん印象に残ったのは、この活動がすぐに結果の出ることを目指していないことです。いま植えた木から漆が採れるころ、それを受け取るのは植えた本人ではないかもしれません。それでも、いつか来る日のために木を植えて、手入れを続けている人たちがいる。その一日分を手伝わせてもらった、という感覚が残りました。

佐治漆には歴史があり、それをもう一度地域の中で育てていこうとする活動があります。体験して楽しかっただけでなく、佐治の漆で何か作品が作られたら触れてみたい、という楽しみが残りました。

記憶に残ったこと

  • 漆の木の前で説明を聞くと、器の艶の前に、山での作業があることが分かった。
  • 53本を測る調査は、活動を続けるための記録そのものだった。
  • オッタクを食べて、漆が工芸だけでなく食文化にも関わることを知った。
  • 10日ほど待つと、自分で拭き漆をした箸ができあがるのが楽しみになった。

佐治漆の背景

佐治には漆の歴史がある

佐治は、かつて良質な漆液の産地として知られた土地です。昭和40年代に漆液生産が大きく衰退した後も、佐治漆研究会が中心となり、植栽や体験会を通して佐治漆を次につなぐ活動が続いています。

佐治漆体験会の案内ポスター
佐治漆研究会ののぼりが立つ会場外観
佐治漆の葉と木
1413

天然の漆液の記録

応永20年、加瀬木で漆液が採取された記録が残る。

江戸期

良質な漆として流通

佐治の漆は藩内外で使われ、丹波や京都方面にも送られていた。

昭和40年代

漆液生産が止まる

安価な代用品や地域産業の変化により、生産は大きく衰退した。

2016

研究会が発足

佐治漆を再興し、後継者育成、地域振興、植栽保全へ取り組む。

2026

体験で知る機会へ

測る、食べる、塗る体験を通じて、活動を一般の参加者に開く。

漆をめぐって知ったこと

漆は、山の財産だった

体験のあとで、漆という素材のことを少し調べてみました。器の艶の向こうに、思っていたより広い世界が続いていました。

かつての佐治で、漆は現金収入をもたらす作物でした。 江戸時代には、鳥取藩が貴重な財源として漆を保護し、奨励していたと伝わります。木そのものが、暮らしのお金に変わっていく。そう考えると、山に漆を植える意味が、少し違って見えてきます。

樹液 漆器の塗料になる。佐治では良質な漆液が採れたと伝わる。
実(漆蝋) 実から蝋が採れ、和ろうそくなどの原料になった。

ただし、それは適切な扱い方を知っていてこそ。かぶれる素材を、掻き、乾かし、塗り、料理にまでする。その技術を誰かが受け継ぎ、産業になるだけの木を育てられる土地を保っている。どれか一つが欠けても、漆は活かせないし、むしろ危ないものになってしまう。体験を通して、そのことがよく分かりました。

いま日本で使われている漆は、その多くが中国産などの外国産だそうです。国産の漆は、ごくわずか。そんな中で、佐治が自分たちの漆を育て、佐治の漆器として愛される文化になっていったら——そう考えると、夢のある話だと思いました。

そして、実際に塗ってみて感じたのは、漆は箸やお椀だけのものではないのかもしれない、ということ。もっといろいろなものに塗って、試してみたくなりました。漆塗りをもっと体験できる機会があれば、これからのイベントにも参加してみたいです。

佐治漆の木と葉
木の樹液も、実の蝋も。漆の木は、暮らしのいろいろに変わっていく素材だった。

一年の活動

体験会の外でも、作業は続いている

公式資料では、佐治漆の作業は春の分根や種まき、夏の漆掻き、秋冬の植栽まで続きます。この日の体験は、その長い活動の一部を知る時間でもありました。

3-5月

苗を育てる準備

分根、種子の植え付け、草刈り、防除など、森づくりの土台を整える。

6-9月

漆を採る季節

初鎌から止め掻きまで、木の状態を見ながら少しずつ樹液を採る。

10-12月

次の植栽へ

苗畑から植栽し、施肥やネット補修で次の年の森を守る。

体験会

知る人を増やす

樹木調査、漆塗り、食体験を通じて、活動に関心を持つ機会をつくる。

体験後の感想

体験して感じたこと

体験会で塗った箸は、10日ほど待つと使える状態になります。漆の木を見て、話を聞いて、最後に自分の手で塗ることで、佐治漆の活動を具体的に知ることができました。

このページだけで佐治漆の歴史や活動をすべて知ることはできません。けれど、少しでも「行ってみたい」「次のイベントを見てみたい」と思ったら、佐治漆研究会の公式サイトをのぞいてみるのが一番早いです。